浦和家庭裁判所熊谷支部 昭和61年(少)10246号 決定 1986年2月28日
少年 J・O(昭42.2.19生)
主文
少年を医療少年院に送致する。
理由
(非行事実及び適用法令)
司法警察員作成の少年事件送致書記載のとおり(但し、「同法第119条2項」の次に「同法第119条1項9号」を加える。)であるから、これを引用する。
(処遇等について)
少年は、中学2年生の頃からシンナー吸引等の非行が始まり、バイクの無免許運転により、講習等の保護的措置を加えられたうえ、昭和56年7月28日審判不開始の決定を受け、翌57年高校へ進学したが6月には中退し、その頃シンナーを吸引した非行で昭和58年1月26日不処分となつたが、転職を繰り返して恐喝未遂に及び、同年11月16日保護観察に付された。その後、保護司との接触はあつたが、相変わらず転職が多く、シンナー吸引、普通乗用自動車の無免許運転、覚せい剤取締法違反の各非行を次々と敢行したため、観護措置を経て昭和59年9月26日○○会に補導委託となつたところ、良好に経過し、同年12月19日再度保護観察の決定を受けたが、翌年肝機能障害で入院した頃から徒遊状態となり、本件の無免許運転、前件の逮捕監禁致傷・恐喝未遂の各非行に及び、前件で昭和60年9月6日不処分になつた後も稼働状況が安定しなかつたものである。
少年は度重なる諸機関の指導にも拘らず、自己中心的で、内省が深まらず、社会や物事の取組みに甘く真剣さがみられないうえ、交友環境が悪く、それも長期に亘つている。少年の父は少年が小学校2年生の頃多額の借金を残して居所不明となり、以来不定期に連絡をよこすのみで少年に対して放任状態であり、少年の母は愛情はあるものの、生活に追われ、いずれも監護力は十分でない。以上によると、この際少年には、地道な就労習慣を身につけさせ、規範意識の涵養をはからせるべく収容教育を施すべきものと思料するが、現在少年には肝機能障害の症状がみられるので、医療少年院に送致することとし、右治療後は中等少年院において教育を受けさせるのが相当である。
よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 関洋子)
昭和61年少第10246号<省略>
〔参考1〕司法警察員作成の少年事件送致書記載の罪名、罰条及び非行事実
(1) 罪名、罰条
道路交通法違反
同法64条、同法118条1項1号、同法70条、同法119条2項、同法72条1項後段、同法119条1項10号
(2) 非行事実
被疑者は
第一 公安委員会の運転免許を受けないで昭和60年6月13日午前0時40分ごろ、熊谷市大字○○××番地先道路において普通乗用自動車(熊谷××-××号)を運転した
第二前記日時場所において前記車両を運転、国道140号方面からマート方面に向け進行中、進路前方において警察の検問を認めるや無免許運転の発覚をおそれ、同検問を免がれようとあわててハンドルを左に切ったため、道路左脇に放置してあった鯛焼店「○○」の店舗に自車左前部を衝突させ、よって同店舗網戸、サッシ等を損壊(損害額約12950円)させもって他人に危害を及ぼすような方法で運転した。
第三 前記のごとく店舗を損壊させる交通事故を起こしたのにその発生日時場所等法律で定める必要な事項を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったものである。
〔参考2〕抗告審(東京高 昭61(く)65号 昭61.3.25決定)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、右附添人が提出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用(編略)する。
所論は、要するに、原決定の著しい処分不当を主張し、本件については、いわゆる短期処遇の勧告をなすのが相当である、というのである。
そこで、記録に基づいて検討するに、本件非行は、普通乗用自動車の無免許運転、その際の物損事故を伴う過失による安全運転義務違反、及び右事故の不申告という事案であるところ、原決定も述べているように、少年は既に中学時代から非行を始め、無免許運転などの交通違反のみならず、シンナーの吸引、恐喝未遂、覚せい剤の自己使用などの非行を重ねて、審判不開始、不処分、保護観察の各決定を受けた後、補導委託による試験観察を経て、昭和59年12月19日に再度保護観察の決定を受けたが、その後も非行が改まらず、地元の不良グループや暴力団関係者等との交際を深めていくなかで、本件を敢行し、また、逮捕監禁致傷、恐喝未遂の前件(昭和60年9月6日不処分決定)が係属するに至つたものであつて、このような経過からみても、少年の非行性には根強いものがあるといわざるを得ない。
そして、原決定も述べているように、少年には内省心が著しく欠如し、世間を甘くみた自己中心的で身勝手な思考や行動様式が身についてしまつていること、少年が持続した勤労意欲に乏しく、これまで不安定な生活状況に終始してきたこと、更には、少年の家庭の監護力にも多くを期待できないことなどの諸点をも考えあわせると、その要保護性は極めて高度であり、少年の更生の実効を期するためには、在宅処遇はもとより、いわゆる短期処遇によることも、もはや不適当であつて、相当長期間の施設収容による矯正教育によるほかはないものと認められるから、少年に肝機能の障害があることにかんがみ、少年をさしあたつては医療少年院に送致し、その治療の経過をみて、中等少年院(一般長期)で教育を受けさせるのが相当であるとした原決定の処分は、正当として是認することができる。
所論が指摘しているように、たしかに、本件は不処分となつた前件以前の非行ではあるが、そのことによつて、右の結論が左右されるものとは認められないし、少年が本件後に運転免許を取得したこと、本件の物損事故について、被害者との間に示談が成立したことなどの所論が指摘する諸事情を考慮に入れて検討してみても、原決定の処分が著しく不当であるということはできない。
以上の次第で、本件抗告は理由がないから、少年法33条1項、少年審判規則50条により、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 坂本武志 裁判官 田村承三 本郷元)